本記事では昇圧回路の実験を行っていきます。最終的には300V以上の電圧まで発生させることができました。同様の実験を行う際は、非常に危険ですので、絶対にコンデンサの端子などに触らないでください。
高電圧を大容量のコンデンサに貯める行為は非常に危険です。実際に行う場合は自己責任でお願いいたします。
また、高周波の電磁波も出る場合があります。電子機器等に悪影響を及ぼす可能性があります。物品が壊れたとしても一切責任は取りません。
実際に実験される方は危険な回路を作っていることを自覚しながら作業するようにしてください。
- 昇圧チョッパー回路の動作について考える
- コンデンサを短時間で高電圧に充電する方法を考える
昇圧チョッパー回路についてはネットでも多くの記事で紹介されておりますが、記事によって動作原理の説明が違ったり、実際に実験してみると記事通りの結果が出なかったりと、私にはなかなか理解することができませんでした。
そこで、本記事では私なりに昇圧チョッパー回路の動きを考え、実験しながらできるだけ短時間でコンデンサを充電する方法を考えていきたいと思います。
あくまでも私なりの考えなので事実とは異なる場合もあるかもしれません。より正しく昇圧チョッパー回路を知りたい方は他のネット記事や動画をご覧になることをお勧めします。
- 昇圧チョッパー回路とは
- インダクタの性質
- インダクタによる昇圧
- コンデンサを短時間で高電圧充電するための考察
- インダクタンスに合わせたスイッチング
- 昇圧実験
❶昇圧チョッパー回路とは
昇圧チョッパー回路は低電圧を高電圧に昇圧するために使用される回路です。上図の回路図からもわかるように使用する部品は
- 電源
- インダクタ
- スイッチング素子(MOSFET)
- ダイオード
- コンデンサ
と少なく、自作でも簡単に作成できる昇圧回路です。
➋インダクタの性質
昇圧チョッパー回路で昇圧のキーとなる部品がインダクタです。インダクタには電流を一定に保つ働きがあります。
電流が流れると自己インダクタンスと呼ばれる現象により、電流の変化に対して逆向きの電圧が生じます。このため、インダクタは電流が変化する際に電流の変化を妨げる抵抗として機能します。
これにより、高周波信号のフィルタリングや過渡応答の制御など多くの電子回路アプリケーションで使用されます。
●自己インダクタンス
コイル内の電流が変化したとき、コイル自体が電流とは逆向きに生成する電圧でヘンリー(H)という単位で測定されます。
高いインダクタンス値を持つコイルは、自己インダクタンスによる影響が強く現れます。そのため、電流を一定に保つ働きが強くなります。
●単位はヘンリー(H)の定義
1秒間に 1Aの割合で電流が変化したとき,1Vの起電力を生じるものを1Hとする。
●インダクタによる回路の動き
・インダクタを含まない回路の場合
上記の回路は、電源電圧5Vに対し、抵抗5Ωが接続されているため回路に流れる電流は1Aになります。
配線自体の抵抗やインダクタンス成分がないものとして考えれば、スイッチをONした瞬間に回路全体へ1Aの電流が流れることとなります。
逆にスイッチがOFFした時も一瞬で回路全体の電流の流れはなくなります。
・インダクタを含む回路の場合
先ほどの回路にインダクタを追加したとしても、同様に電源電圧5Vに対し、抵抗5Ωが接続されているため電流は1A流れます。
しかし、インダクタにある自己インダクタンスの影響で一瞬で回路全体に1Aの電流が流れることは無く徐々に流れる電流量が増えていきます。
この電流量の変化は下記の式で求められます。
$ ΔI=\frac{V}{L}ΔT $・・・・式(1)
この時、インダクタのインダクタンスが20Hだった場合、
$ ΔI=\frac{5V}{20H}ΔT=\frac{1}{4}ΔT$
になるため1秒ごとに0.25Aずつ電流量が上昇し、4秒後に1Aとなります。
このインダクタの動きはスイッチをOFFした時も同様で、1秒ごとに0.25Aずつしか電流は減少せず、インダクタに流れる電流が止まる(0A)のに4秒かかります。
❸インダクタによる昇圧
昇圧チョッパー回路はインダクタの電流を流し続ける性質を利用して電源電圧よりも高い電圧を発生させます。
下記回路図で電流を流している状態からスイッチをOFFしたとします。インダクタはスイッチをOFFにしても電流を流し続けようとするため、下記回路図の赤い部分には電流(電荷)が押し込められ、電源電圧よりも高い電位となります。
時間が経つとインダクタの電流は止まりますが、ダイオードによってコンデンサに蓄積された電荷は流れ出ることなく、コンデンサは高いままの電圧を維持します。
❹コンデンサを短時間で高電圧充電するための考察
そこで昇圧チョッパー回路でコンデンサを早く高電圧に充電するためには
- インダクタに電流(電荷)を多く流す
- スイッチのON-OFF回数を増やし、電荷を送る回数を増やす
(スイッチングを早くする) - スイッチをOFF時に電荷を流し続けられるインダクタを選ぶ
(インダクタンスの大きいインダクタを選択する) - 高い電圧をインダクタースイッチ間に発生させる
(インダクタンスの小さいインダクタを選択する)
❹について、式(1)を下記のように変形させると
時間当たりの電流変化量を大きくすることで高い電圧をインダクタンスから出力できることがわかります。
$ V=\frac{ΔI}{ΔT}L $・・・・式(2)
③と④は
- インダクタンスを大きくすると電流の変化が遅くなる
- インダクタンスを小さくすると一回のスイッチON-OFFで流せる電荷が減る
といったようにトレードオフの関係になります。
このことからインダクタンスの大きさとスイッチングの速さの調節が必要そうだということがわかります。
- インダクタンスを大きくしてスイッチングを遅くする
(一回のスイッチングで多くの電荷を送る作戦) - インダクタンスを小さくしてスイッチングを早くする
(電荷を送る回数とインダクタの電流変化量による電圧上昇狙う作戦)
❺インダクタンスに合わせたスイッチング
ここでインダクタンスの大きさにあったスイッチングのON時間、OFF時間を式(1)を変形させた下記の式で使って考えてみます。
$ ΔT=\frac{ΔI}{V}L $・・・・式(3)
計算条件
- 電源電圧:9V
- インダクタ:
100μH、200μH、330μH、470μHの4種類で計算を実施
定格電流は4種類とも9A
インダクタの定格電流が9Aのため、インダクタに流れる電流が9Aに達したらスイッチをOFFして0Aにする必要性があります。
各インダクタに対し、時間ごとの電流をグラフにまとめました。
このことから各インダクタの最適と思われるスイッチングの時間は下記のようになり、インダクタンスが多き程、電流が流れるまでに時間がかかるためスイッチングの時間が長くなることがわかりました。
使用するインダクタ | ON時間 | OFF時間 |
100μH | 100μs | 100μs |
200μH | 200μs | 200μs |
330μH | 330μs | 330μs |
470μH | 470μs | 470μs |
また、インダクタの電流を制限する抵抗の入っていない昇圧チョッパー回路の場合、スイッチをONすると短絡状態になるため電流が無限に上昇していきます。
その場合、ON時間より長くスイッチをONすると電流が多く流れるため、充電は早くできますが、インダクタの電流も定格の9Aを超えるため危険だということもわかります。
❻昇圧実験
実際に計算で得たスイッチングの時間でコンデンサを充電できるか確認してみたいと思います。
主要部品
- 電源:安定化電源 9Vを出力
- インダクタ:100μH、200μH、330μH、470μH
- スイッチ:MOSFET(TK15J50D)
- ダイオード:1N4007
- 電解コンデンサ:450V 470μF
別途部品
- ゲートドライバ:自作 信号電圧 15V
- 信号源:Arduino Uno
5秒間でコンデンサを充電して電圧がいくつになっているかを計測します。
ON/OFF時間をいくつか設定して先ほど計算した結果が最も高くなるかも見ていきたいと思います。
今回の昇圧チョッパー回路はインダクタの電流を制限する抵抗が入っていないのでスイッチングの時間のみで回路内の電流量をコントロールします。
ON時間より長くスイッチをONすると電流が多く流れるため充電は早くできそうですが、インダクタの電流も定格の9Aを超えるため今回は計算値以下のスイッチング時間で実験しました。
実験結果を下記の表にまとめます。
100μF | 200μF | 330μF | 470μF | |
1μs | 52V | 43V | 39V | 36V |
25μs | 131V | 107V | 93V | 86V |
50μs | 175V | 144V | 124V | 115V |
75μs | 212V | 173V | 150V | 137V |
100μs | 240V | 197V | 170V | 155V |
150μs | 244V | 210V | 190V | |
200μs | 280V | 243V | 220V | |
300μs | 293V | 278V | ||
330μs | 310V | 295V | ||
400μs | 317V | |||
470μs | 325V |
コンデンサを短時間で高電圧に充電するのならインダクタンスの大きいインダクタを使用し電流の許す限りスイッチングを遅くすることが有効そうです。
また、同じスイッチングの時間であれば小さいインダクタンスの方が電圧が上がりやすいことも分かりました。これはインダクタンスが高くスイッチングが早いと電流が多く流れる前にスイッチがOFFしてしまうためだと考えられます。
おまけ
実験で使用したArduinoのコードを添付します。
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int TimeON = 100; int TimeOFF = 100; int TIME = 5000; // 5秒間=5000ミリ秒経過するまで int outpin = 13; int inpin = 2; int button = 0; void setup() { pinMode(outpin,OUTPUT); pinMode(inpin,INPUT_PULLUP); } void loop() { button = digitalRead(inpin); if (button == LOW){ unsigned long start = millis(); // 処理B開始時刻 while (millis() < start + TIME) { // TIME秒経過するまで digitalWrite(outpin,HIGH); delayMicroseconds(TimeON); digitalWrite(outpin,LOW); delayMicroseconds(TimeOFF); } } else{ digitalWrite(outpin,LOW); } } |